【背景および目的】成熟ラットの食道は横紋筋のみで構成され、その運動は主に迷走神経によって制御されている。それに対して、出生直後のラットの食道筋層は、平滑筋から横紋筋に置き換わっていく過程にあり、横紋筋だけでなく平滑筋細胞も存在している。また、新生仔ラットの食道の横紋筋細胞の中には発達途中の未熟な細胞が含まれており、この細胞に対するコリン作動性神経の接続は形態学的に明瞭ではない。そのため、新生仔ラットの食道運動が成熟ラットと同様に迷走神経により制御されているかは不明である。そこで本研究では、新生仔ラットの食道筋の収縮制御機構について、摘出標本の機械的反応を指標にして検討した。【方法】出生直後(0日齢)のラットから胸部食道を分離し、オルガンバスに設置した。等尺性フォーストランスデューサーを用いて、輪走方向の食道筋運動を記録した。【結果】食道右側の迷走神経を電気刺激したところ、二相性の収縮反応が誘発された。一相目の反応は、横紋筋のニコチン性アセチルコリン受容体の阻害薬であるα-ブンガロトキシンの投与によって消失した。一方、二相目の反応は、平滑筋のムスカリン性アセチルコリン受容体の阻害薬であるアトロピンの投与によって消失した。しかし、神経節遮断薬であるヘキサメトニウムは、二相どちらの収縮反応に対しても影響しなかった。また、これら二相性の反応はいずれも、ギャップ結合の阻害薬であるハロタンの投与により抑制された。【結論】以上の結果から、新生仔ラットの食道横紋筋および平滑筋運動はコリン作動性迷走運動神経によって制御されていること、その制御は神経節を介さないものであることが明らかとなった。さらに、ギャップ結合が新生仔ラット食道筋の収縮機構に関与していることが示唆された。